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しきたり雑考(98)

天狗

今月は「天狗」についてお話しします。
{『現代民話考1 河童・天狗・神隠し』 松谷みよ子著 立風書房を参考}

世には不思議なことがたくさんあって、
その原因が分からなくて、不安や怖れをいだくこともあります。
先月の川に引き込む河童もそのひとつと言えましょう。

木曽谷の道路を車で走らせていると、木曽の山々に何かいる気配を感じます。
あるいは長野県から高速で群馬県に入ると、高い山々が見えます。

そんな山を見た時にも、あの山に何かいるという気配を感じるのです。
それが天狗なのか、得体の知れない「モノ」なのかはわかりません。

天狗について調べてみると、数えきれない実話が出て来ます。
参考にしている松谷みよ子さんの本にも、さまざまな実話が出て来て、
ほんとうに天狗がいると思ってしまいます。

日本昔話に「天狗のかくれみの」という話が載っています。
まとめて、載せてみます。

むかし、むかし、あるところに、
彦市というたいへん利口な男がいました。

おく山に天狗が住んでいて、
「かくれみの」というものを持っていると聞きました。

そこで彦市は、そのみのがほしくてたまらず、
1mある竹つづを持っておく山にでかけました。

その山の高い木に登り、
その竹づつを、とうめがねのようにして、四方八方を眺めまわし、
「おもしろい、おもしろい。江戸の大火事、薩摩のいくさが見える」
と、大声でわめきました。

するとそこへ天狗が現れ
「ほんとうに見えるのか。少しおれにもかしてみせろ」
と言います。

そこで彦市は天狗の「かくれみの」と交換に、その竹づつを渡し、
急いで、そのみのを着て、山を下りてきたのです。

彦市はその「かくれみの」を着て町にで、さまざまないたずらをしました。

ある時、納屋にかかっていた汚いみのを、
天狗の「かくれみの」とは知らずに、母が焼いてしまいました。

彦市はその灰をつけて、町に出て、いたずらをしたのですが、
灰がとれて、姿が見えてしまい、ひどいこらしめを受けたのです。

(『日本のむかしの話四・偕成社文庫より』)

こんな話です。

思うに、その後、彦市は天狗に見つかり、
さらにこらしめを受けたのではないかと思います。
そんなに天狗は甘くないのです。

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