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しきたり雑考(95)

松の木の不思議

今月は「松の木の不思議」についてお話しします。
{『現代民話考9 木霊・蛇』 松谷みよ子著 立風書房を参考}

松の木はお酒が好きだと、生前、母が言っていました。
燗冷ましで残ってしまったお酒を松の木の根元にまいた記憶があります。

こんな話があります。

ある年のこと、家を新築し、庭に石をすえたり、
植木もいっぱいいれ、松の木も植えたのです。
それも松だけは特別扱いで、植える前の地面にはお酒で清め、
植える穴にはお酒をまいてスルメイカをいれ、
そこに大きな松の木(樹齢百年)がおさまると、その上からお酒をまいたのです。
その家の松は良く根づいて枯れなかったという実話があります。

松の木には、何か人の思いを察する、そんな力があるのかもしれません。
松の木ばかりでなく、植物や木にも、人の思いを感じとっている。そんな感じがします。

こんな話もあります。

昭和九年のことです。ある藩主の末裔で、
出世して通信大臣になった前田利定という人が、
お祝いのため郷里に帰り、菩提寺である永心寺というお寺にお参りをしました。
記念に先祖の墓の前に松の木を植えたのです。

その寺の住職が、その松のそばに誇らしげに
「前田閣下(かっか)手植えの松」という立札を立てたのです。
ところが「お手植えの松」と書けばいいのに、「手植えの松」と書いたので、
その立札を見た人たちが、その立札を、次のように読んだのです。
「前田カク、ヘタ植えの松」と。 

町のみんなも、「ありゃ、下手(へた)植えの松だ。すぐ枯れちまうわ」と笑ったのです。
その松の木は赤くなって、ほんとうに枯れてしまったのです。
そして今度は「前田閣下お手植えの松」と書き換えたそうです。
その松は枯れないで、まだこの永心寺にあるそうです。

町の人の笑いを松が感じ取って、枯れてしまったと思える実話です。

野菜でも、怒りをこめて植えると、
みな枯れてしまったという体験をした檀家さんがおられました。

松ばかりでなく、みな植物や木は、人の言葉や思いを感じとる力があるようです。
その意味で、心優しく接していることが大事になると思われます。

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