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しきたり雑考(94)

木が守る

今月は「木が守る」についてお話しします。
{『現代民話考9 木霊・蛇』 松谷みよ子著 立風書房を参考}

木が守るといえば、家造りには木は欠かせないものです。
その意味で、木は人を守るそんな力があるといえます。

諏訪の御柱でも、大きな木を立て、そこに神を迎えるのですから、
その木が神と同じ力を持ち、人を守っているともいえます。

ここでは、二つの話をします。
参考している本の中に書いてあった実話です。
まず、場所は岐阜県、昭和の初めの頃の話です。

ある家の裏手の山に何百年も年を経た栃(とち)の大木があった。
他にも木がたっていることだと思い、その栃の木は老木なので、
木工材料にと、その木を切って売った。

それから四、五年あと、台風による集中豪雨にみまわれ、
あっという間に山が崩れ、家もろとも押し流されてしまった。

幸い家の人に命の被害はなかったが、
あの栃の木を切らなければ、こんな被害にならなかったと、たいそう嘆いた。

こんな話です。
老木であるけれど、栃の木の大木が家を守っていたという話です。

もう一つは梅の木の話です。
場所は秋田県。昭和一八、九年ごろの話。

ある家の畑の隅に、2本の梅の木があった。
古い木で、実は少ししかならなかったが、葉はよく茂り日当たりが悪く、
その木のまわりの作物に影響した。

食糧難の時代であったので、梅の木を切ることにしたが、
おばあさんが先祖様が残してくれた梅の木だからと切るのを反対した。

とりあえず、その年は切るのをやめたが、
翌春、どういうことか、いつもより実がたくさんなって、
おばあさんはそれで梅干しをたくさん作った。

その年の夏、その辺一体に腸チフスが大流行し、
近所の人たちは次々とチフスにかかり隔離された。

おばあさんの家は梅干しを食べていると悪病にかからないと、
毎食梅干を食べていた。それがよかったのか、
その家では一人もチフスにかからなかった。

以前にも野火が広がって火事になりそうなとき、火を防いだこともあった。

木も人を守る、そんな働きをしているようです。
木を見る目が変わりますね。

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