しきたり雑考(92)
木霊(こだま)2
今月は「木霊(こだま)」についてお話しします。
{『日本迷信集』今野圓輔著 河出文庫を参考}
「ききみみずきん」という日本昔話があります。
あらすじを書いてみます。
心の優しいおじいさんがキツネを助けた代わりに、
汚いけれども小さな頭巾(ずきん)をもらいました。
おじいさんはためしに、その頭巾をかぶると、
さえずっていた鳥の話が分かるようになったのです。
ある日、木の上のカラスが会話をしているのを聞きました。
「村の長者の娘の病気が、どうも楠(くすのき)のたたりだ」と。
そこで、長者の家に行って、楠が話しているのを聴きました。
すると、新しく造った蔵が、楠の腰の上に建っていて、
それが楠にとって苦しくてたまらないというのが分かりました。
そのことを長者に伝え、蔵をどかすと、
楠のたたりが消えて娘の病気が治り元気になった。
そんな話です。
この話を読み、頭巾のほうに気をとられ、
楠の嘆きをあまり気にしていませんでした。
楠が痛がっている、「そうだと思う」ぐらいにしか思っていませんでした。
松谷さんの本にも、木の悲しみ、怒りの章のところに、楠の話が出てきます。
長崎県の森さんという人の話です。
昔森さんの近所に立派な石垣をめぐらした屋敷があったというのです。
その屋敷に何百年もする楠の木が立っていました。
その木を福岡県の大川というところにある家具工場に売るため、
主人が商談に出かけました。
ところが大川に行く前の晩、一晩中、その楠が泣いていたというのです。
その楠が泣いた晩、お遍路さんがこの家に泊って、その楠の泣くのを聴き、
それを主人に告げたのです。
お遍路さんは、楠が切られて売りに出されるということは知っていませんでした。
主人は楠が一晩中泣いていたのを知りながら、
その木を切って、家具工場に売ってしまったのです。
その帰り、事故にあったのでしょう。
主人の足が一本切り落とされていたというのです。
しかも、この屋敷は後に、火事にあって焼けてしまったのです。
夜中に燃え盛る火を見て、
森さん(小3年のころ)はぶるぶると震えて、その火事を見ていたというのです。
何百年もするような木には、
人間と同じ感情のある魂(霊)が宿っているかもしれません。