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しきたり雑考(91)

木霊(こだま)

今月は「木霊(こだま)」についてお話しします。
{『日本迷信集』今野圓輔著 河出文庫を参考}

木霊というのは樹木の精霊という意味です。
木に精霊が宿っているのかと思いますが、
どうも樹木にはそれらしいものが宿っているようです。

諏訪の御柱の祭りで、柱に使う大木を、
宮司さんが神事をしてから、倒している。
そんな様子をテレビで見たことがあります。

ですから、一般の家でも、周りにある木を切るときには、
何かのお祓いや木霊の霊を抜く、そんな儀礼が必要なのかもしれません。

実際、木の精霊を見たことがあります。
お寺の裏にかつて栗の木がありました。
そこにクスサンというガの一種である蝶が卵を産み、
たくさんの幼虫(シラガダイユウという)が生息して、
栗の葉を食べ尽くしてしまうことがありました。

このクスサンというガは、「ゴジラ」という映画に出て来るモスラという、
架空の蝶のモデルになったと言われている蝶です。

その栗の木は背が高く、消毒もできないので、
生息した幼虫を長い竹で落としていました。
何年かしたある日のこと、同じように竹で幼虫を落としていると、
栗の木がザワザワと身震いするように震えたのです。

一瞬でしたが、その葉の一枚いちまいが震えていて、
栗の木のてっぺんから、何かが木から抜け出たのです。
そして丸く柔らかな塊(かたまり)のようなものに変化して、
天に「すー」と昇っていったのです。
そのとき、「木の精霊が抜けたのだ。この木は枯れる」と思いました。
実際、枯れてしまいました。

参考にした本のなかに、こんな例話が載っていました。

明治の頃、山形のあるお寺に大きなイチョウの木があった。
ある年のこと、ギンナンの実がたくさんなったので、
子どもが木にのぼり、その実を取っていた。

すると、一人の子が木から落ちて死んでしまった。
そこで、和尚はこの木を切ってしまおうと思った。

その夜、和尚が寝ると誰かが揺り起こし、
「和尚様、お願いです。子どもを殺してしまったのは申し訳ない。
 今後は実をつけないから、どうか切らないでくれ」
という不思議な声があった。
その後、このイチョウの木には実がならなかったという。

木霊はほんとうにあるようです。

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