ことわざ雑考(16)
近きを捨てて遠きを謀る
今月は「近きを捨てて遠きを謀る」についてお話しします。
{『ことわざ・名言辞典』(創元社)を参考}
謀るという字は、このことわざに適した意味として、
「問いかけるとか、相談する」です。
ですから、このことわざは
「目の前のことを顧みず、遠いことばかりをはかっている、
問いかけているということで、物事の順序を誤っている」
となります。
「山のあなた」という詩があります。
この詩はドイツのカール・ブッセの詩で、それを上田敏が訳したのです。
ずいぶん有名になった詩です。載せてみます。
「山のあなた」
山のあなたの空遠く 「幸」住むと人のいう
噫われひとと尋めゆきて
涙さしぐみかえりきぬ
山のあなたになお遠く「幸」人の住むという
この詩の意味は、
「山の向こうのずっと遠い空の彼方に幸せがあるという。
私は知人と一緒に出掛けてみたが、見つからず涙して帰ってきた。
山の向こうのもっともっと遠くの空の彼方に、
幸せがあるんだと誰かが言った」
幸せはなぜか遠くにあるから、歩いて見つけにいく。
そんな考えが正しいと思ってしまいます。
次のような禅語もあります。意味だけ言うと
「春を訪ねて遠くまで行ってみたけれど、
春を見つけることができなかった。
がっかりして家に帰ってみれば、家にある梅の花が一輪咲いていた。
ああ、こんな近くに春があったのか」春も近くにあるのです。
幸せはほんの近くにあって、遠くに求めるものではない、
ということです。
今月の「人生の竪琴を弾く」というお話の中に、
「あの日から」という詩を載せました。
その詩を書いた女性が、ガンを告知されて、
見失っていたものが、たくさん見えるようになって、
身近なところにある幸せに気づき、
たくさんのありがとうをいいたいと言っていました。
手に小さなトゲが刺さっても、上手に手が使えなくなります。
トゲの刺さらないときには、あまり手のことを意識しないで使っていますが、
手を充分使えるだけでも幸せなのです。
一輪の梅の花を見て、春を見つけたように、
普段の何気ないことごとの中に、一輪の幸せを見つけると、
幸せに囲まれている自分に気づくでしょう。
