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みにミニ法話

(130)「無償の愛」

ある本にこんなエピソードが載っていました。
無償の愛を思わせる出来事です。

無償の愛が、少し大げさであるならば、
相手のことを大切に思うとでも言ったらいいかもしれません。

在る日、お医者さんの玄関先に男の子が捨てられていました。

その医院の奥さんである光代さんは、
自分の子、真太郎と同じ年くらいのこの子を、一緒に育てることにしました。

その子は辰男といいます。

辰男は少し知恵が遅れていて、小学校のときには特殊学級に通いました。
自分の子の真太郎は、聡明で、みんなから注目をあびていました。
光代さんは、それでも二人を差別することなく、どちらの子も大切に育てました。

小学校3年生の運動会のときです。
かけっこがあって、真太郎は7人の集団の2番目を走っていました。

カーブの所で先頭の子が倒れて真太郎は1等になりました。
先の子が倒れれば、その子を抜いて走っていくのはあたり前のことです。

今度は辰男の番です。
辰男は足があまり早くはなかったのですが、
それでも珍しく2番目を走っていました。

どういうことか真太郎のときと同じように、
先頭を走る子がカーブで足を滑らせ転んでしまったのです。

どうしたことかそれを見た辰男は、急に立ち止まって、
倒れた子を起こして走り始めたのです。

それを見ていた人の中には、
「何をやっているんだ。1位になれるのに」と叫ぶ人もいます。

でも、母の光代さんはそれを見て涙があふれてたまりません。
「辰っちゃん、素晴らしい」そういって、ゴールした辰男を抱きしめました。

光代さんは、倒れた子を起こし、一緒に走った辰男の行為に、
相手を思う慈しみの心を感じたのです。

知恵おくれでも、心根の優しさを思います。

人の価値は、聡明であることにこしたことはありませんが、
人を思う心を素直に現わせる在り方も、価値あるものであると感じます。

同じ競争をしていて、同じものを求めていて、
そのときに困った相手を助けられるかどうか、自らに問わなくてはならないお話です。