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しきたり雑考(86)

呪術

今月は「呪術」についてお話しします。
{『日本迷信集』今野圓輔著 河出文庫を参考}

呪術とは神秘的な力に働きかけ、さまざまな目的を成し遂げようとすること
と辞書には書かれています。

日本では、特に東北に伝わるワカ、イタコ、モリコという女性がいます。
口寄せと言って、死者の声を神秘的な霊力を使って、
この世の肉親に伝えるのです。

彼女らの仕事の中に、
原因不明の病気などを呪術的な平癒法を施し、病気を治すことがあります。
今野先生の本には、こんな例話が書かれていました。

ある旅館の女主人(62才)は、夫が亡くなって、
その葬式を出してから、二十八日目に床に臥(ふ)すようになりました。

仏間で静かに休んでいると、昼間なのに、
座敷の空中に、美しい地蔵様が、ありありと見えるようになりました。
その地蔵様を見て、夢ではないかと疑い、幾度も確認をしたのです。
ともかく、何日も地蔵様が現れるので、巫女(みこ)様に見てもらいました。

巫女様は
「水の中だか、泥の中だか、私を投げ捨ててしまった。
 母ちゃんに抱かれて寝たかった。
 他の赤ん坊のように乳をのませてもらったり、かわいがってほしかった」
と、巫女様のホトケ降ろしの口を通して、死霊は語ったのです。巫女様は、
「これは水子(みずこ)の霊です。思い当たる浮かばれない水子はいませんか」
と、女主人に尋ねました。

そこで、女主人は昔のことを思い出し、
「ひとり流産した胎児がいましたが、ちゃんと供養しました」と。
それから何日も経って、それまでまったく忘れていた、
今まで誰にも話したことのない水子のことを思い出したのです。

三ヵ月で便所に流産してしまった水子がいたのです。
女主人に執り憑いた死霊は、その子であったのです。
さまざまな呪法をいただき、この子のために地蔵を彫って墓地にあげて供養したのです。

こんなお話です。

このような話はたくさんあります。
死は終わりでなく、どう生きてあの世の光の世界に帰るかが問題で、
そのために、正しく生きる「しきたり」を身に纏うことです。
そして、供養の在り方も蔑ろにせず、感謝の思いを先祖様に伝えることも大事でしょう。

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