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しきたり雑考(76)

お歯黒と入れ墨

今月は「お歯黒と入れ墨」についてお話しします。
{『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著 参考}

お歯黒は、時代劇などで見たことがあります。
平安時代のことであったと記憶していますが、貴族の男性もしていました。
今では白い歯のほうがきれいなのに、なぜ歯を黒くするのか、
とても興味がありました。
調べてみるとさまざまな理由があるようです。

まず、既婚女性が歯を黒くして、
貞節な妻という誓いを立て、行ったということが一つです。
あるいは歯を黒くすることで、柔和な顔つきになったことや、
歯の虫歯予防にもなったといいます。
また歯並びの悪い人は、それを隠すためであったともいいます。

先月七五三のことを書き、それぞれに成長する段階で、
着る物が異なる話をしました。
同じように歯を黒くすることで、幼ない少女から大人の女性に代わる、
そんなしきたりもあったようです。

また、妖怪の一種で、お歯黒を嫌がるものがいて、
お歯黒の人間は、その妖怪を倒せるとも信じていたようです。
このお歯黒は女性ばかりでなく、男性も戦)に行ったときに、歯を黒くしたようです。
敵に首を取られても、歯の黒さで、顔が凛々しく見えるようにと念じたといいます。
このお歯黒は、日本ばかりでなく、タイ、ベトナム、インド、フィリピンなどでも行われて、
それぞれのお国で、深い意味があるのでしょう。

お歯黒は消すことのできない一つの装飾ですが、
入れ墨も同じように消せない装飾であると言われています。

北海道のアイヌや南西諸島の島々では、女性の手からひざ下に、
「ハジチ、ハズキ」と言って、墨や朱などをすり込み、模様を入れたようです。
沖縄や奄美(あまみ)などでも、図柄や模様が違って、多様性はあるようです。

この意味ですが、手の入れ墨は一人前の女性として必要不可欠であり、
入れていない女性は「あの世」に行けないと信じられていました。
また、その入れ墨の図柄を見ただけで、どこの生まれかを示す重要な情報でもあったのです。

任侠の世界のヤクザさんは、入れ墨を彫る痛みを我慢する強さと、
一般の生活と一線を画している表示であるとも言われています。

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