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しきたり雑考(69)

邪を払う声と音

今月は「邪を払う声と音」ということでお話しします。
{『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著 参考}

先月は大声には呪という祈りの力があって、
声を発することで、大風(おおかぜ)を退散できるというお話でした。

この声は大風ばかりでなく、さまざまな事にも機能していたようです。

たとえば火事の場合ですが、ある地方では、
火事があると7日以内に、火の悪霊を払う儀式を行ったといいます。
それを「火返し」といったようです。「ホーイ」とか「ホーハイ」と声を出し、
悪霊を追い出すまじないをしたわけです。

あるいは葬儀の時にも、
龕(かん)をかついだうちの3人が喪主家の家を浄める儀式をしました。
一人は煎(い)った豆を持ち、一人は塩の包みを持ち、
一人は一メートルくらいの棒を持ち、遺体を安置していた裏の部屋から、
「ホーホー」と言いながら、壁をたたき、豆や塩を投げつけ、
悪霊を払ったというところもあるようです。

猿や鹿といった動物でも、法螺(ほら)の貝を吹いたり、
木の板をたたいて、「ホーツラ」と言いながら追ったというところもあります。
また、谷川の水を飲む時に、「ホー」というとあたらないとか、
なまの海老を食べる時には「ホー」というとよいなど、さまざまです。

一節には、このような掛け声や音などは、神霊に対する呼び声であって、
神の到来を知らせる音声に通じているとも言われています。
この声や音が、邪を祓う神を招くわけです。

音といえば、神社にお参りするとき、
本殿の前に鈴がつるされていて、それを鳴らします。
それも邪を払い神様をお呼びする儀式のようです。

さらには拍子木(ひょうしぎ)の音も大きな力があるようです。
ある地方では、「拍子木の音には、魔の火を退散させる神の力が宿っていて、
拍子木を打つことで火が消え、火が退く」と、言い伝えられています。
拍子木を打ちながら、「火の用心」と声を出し、夜まわりをする意味もわかります。

坐禅の時にも、この托(たく)といって、拍子木を打ちます。
これも禅堂内の邪を払う意味があるのかもしれません。

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