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しきたり雑考(66)

×じるし、十字しるし

今月は「×じるし、十字しるし」ということで先月の続きをお話しします。
{『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著 参考}

手紙を封書にいれて封をしますが、
そこに〆という記号のようなものを書きます。

以前からどうしてこんなことをするのかと疑問に思っていたのですが、
これは×じるしから来ていて、手紙を封書の中に封じ込める意味でするようです。
×じるしをして貴重なものを封じ込めるのです。

神社の屋根に×じるし型の抑えのようなものを見たことがありますが、
これも魔をよせつけない、そんな意味があるようです。

また、疫病をよけるために、この十文字を使ったとも言われています。
江戸時代に、コロリ(コレラ)の疫病を避けるために、
村の境に竹を十字に編み、立てたという記述があるようで、
そこを境にコロリの侵入を防いだというのです。

また家に疫病の人が出ないように、軒先に十字の網(あみ)を張ったり、
病人の枕元にも網を張ったとも伝えれています。
これは竹の十文字の交差の集合が魔除けになるということから来ているようです。

小さい頃に、雷が鳴りはじめたら蚊帳(かや)に入ればよい
ということを聞いたことがあります。そんなところに入って、
本当に雷を避けることができるのかと思ったのですが、
これも素材の麻が十字に組まれていて、
この十字の集合が魔を避けるところから来ているというわけです。
蚊帳はただ単に蚊を避けるのみでなく、
邪悪なものから身を守る働きしていたのです。
沖縄では、幽霊に追われたとき、
網の中に入ればよいという言い伝えもあるようです。

仏教でも邪気を祓うために九字(くじ)を切るといって、
十文字や斜十字を呪法として使いまます。この九字をドーマンというようです。
またセーマンと呼ばれる五芒星の形である星じるしのような呪術的な図形も、
魔や邪気を祓う力があると言われています。
三重県の志摩のほうでは、海女(あま)が、頭にかぶる手ぬぐいに、
このような文様を刺繍して魔除けとする習俗もあるようです。

これらのことを調べてみると、
斜十字(×)や十文字には魔を払う力があると信じてもよいですね。

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