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しきたり雑考(65)

×じるし、バッテンについて

今月は「×じるし、バッテンについて」ということで考えていきます。
{『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著 参考}

名前の上に斜線を引いたり、×じるしを書いて、
その人が欠席であるとか、退会したとか、必要がないなどと
確認する仕方があります。

それをする場合、あるいはされる場合に、
とても違和感を感じる時があります。私などは、
心を傷つけられるほどの痛みを感じてしまいます。

この×型は、なにか禍(わざわい)などの呪術的な雰囲気を感じさせ、
しかも禁止の意味を含んだ形であると言われています。

昔は生まれた幼児のひたいに、×じるしを書いたり、
亡くなった人のひたいにも、この×じるしを書いたようです。

その意味は、魔除けの意味があるというのですが、
遺体につけるのは「あの世のものになったから、
再びこの世に戻ってくるな」という意味があり、
生まれたばかりの赤ちゃんの額に×じるしをつけるのは
「異界からこの世にやってきた。再び異界にもどるな」
という意味があるというのです。

常光氏はこの×じるしについて、
漢文学者であった白川静の説を書いています。
すこしまとめてみます。

×が悪霊に対する禁止として使われるのは、
死の時のみでなく、出生においても同じである。
生まれた子のひたいに×をつけるのは、わが国でも久しく行われていた。
後にこの×をあやまって「大」とか「犬」の字をあてたが、俗説である。

この×は新しい肉体に邪霊がとり憑(つ)くことを禁じるものである。
文字において、「産」の字形の中にある「厂」(かん)は、ひたいを意味し、
文は×を意味し、厂の中に「生」まれるという字を書いて「産」となる。
白川氏の漢字の分析ですが、なるほどと思ってしまいます。

常光氏の本に、こんなエピソードも書かれています。

東京のある高校で、女子生徒が教室から飛び降り自殺をしました。
落ちた場所に血がついていて、消しても消してもすぐ浮き上がってきます。
そこで緑と赤の×じるしで塗りつぶして隠したのです。
そして飛び降りた教室には×じるしをし、その教室をバッテン教室と呼び、
立ち入り禁止にした、という話です。×には何かの力があるようです。

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