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しきたり雑考(64)

マムシ指について

今月は「マムシ指について」ということで考えていきます。
{『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著 参考}

指の形はみな、そんなに違いはないのですが、
特に親指の形がマムシの頭の形に、にている人がいます。
親指の先が丸くて左右に張っているという形でしょうか。

私の母もそんな形をしていて、生前、
「これがマムシの指よ」と言って見せてくれたことがありました。
母は「この指の持ち主は器用だ」といっていましたが、
実際、針仕事を独学で学び、たくさんの着物を縫っていて、
母の着物は着やすいという人がたくさんいました。ですから、
まんざら嘘でもないかもしれません。

このマムシ指は「ニガ手」ともいい、不思議な力があったのです。
たとえば、腹痛や胸がさしこみ発作がおこすような病気があります。
この原因は、人の体内にムシが宿っていて、
それが病気や感情を左右する原因になっていると、
昔の人は信じていたようです。

「今日は、ムシのいどころが悪い」などの表現として残っています。
そんな病気になった時に、ムシの王であるマムシ指でお腹をさすってあげると
腹の中にいるムシたちが、そのマムシの力で身動きができずに、
病気が治ってしまうというのです。

これらのことは、日本のさまざまな地方で伝承されています。
「腹痛は女のマムシユビ(ニガテ)で腹をさすってあげると治ってしまう」
というのは、長野や京都、大阪などで伝えられているようです。
また「マムシ指でさすってもらえば、喉にささった魚の骨がとれる」
ということもあるようです。

マムシ指の持ち主は、実際、マムシの蛇にかまれることがないということや、
その手でマムシをつかめば、静かに胴体をのばしてしまうというのです。

このマムシ指は、マイナス面もあり、
たとえば、この手の人が作った食事はうまくないとか、
梅を漬け、シソを入れると梅が黒くなるとか、上手い漬物ができないとか、
マムシ指でみそ桶に手をいれると、味噌の味が落ちるとか、さまざまです。

そういえば私の母も梅を漬けるのは苦手であったようで、
「梅を漬けるのは、上手にいかない」と生前こぼしていたことを思い出します。

どうしてマムシ指はこうなるのか原因は分かりませんが、
世には不思議なことがたくさんあるのです。

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