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しきたり雑考(62)

後ろ向きの風習さまざま

今月は「後ろ向きの風習さまざま」ということで考えていきます。
{『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著 参考}

後ろ向きの風習で参考にしている本の中に、次のような話が載っています。
後ろ向きの幽霊という話です。

あるおじさんが運転手の助手台に乗っていると、
女の人が道を後ろにして立っているのが見えたそうです。

運転手はそのとき
「あれに声かけるなよ。大変なことになる。
後ろ向きに立っている女は、ほんとうの人間ではないからね。
声をかけてはいけない」

そう言って、そーっと、その場を通り過ぎた。
こんなお話です。

道端に後ろ向きに立った姿を見て幽霊であるという発想は、
後ろ向きが、人間界とはまったく反対の世界に住む人である
という考えからきていること表しているようです。

また七日目に家に入る時は、
後ずさりして入ればいいという風習もあります。
七日目に家に帰ることを忌む風習があったようです。

昔、私の母が
「遠くへ行く時には必ず玄関から出なさい」
と言っていました。

玄関から出るというのは、
またこの家に帰ってこられるという考えからきているのです。

ここでの後ろ向きに入るとうのは、
家を出る時のままで家にはいるのですから、
本人にはすでに家に帰っているという発想になり、
忌むことがなくなるというのです。

こんな風習もあります。
お嫁に行く時に、戸口をまたぐとき後ろ向きに出るというのです。
家に入る格好で家を出るわけです。これは普段と違った出方です。

正常な出方では、やがて家に帰ってくるということになりますから、
それを避けるのです。後ろ向きに出ることで、お嫁先から実家に戻らない、
帰らない、すなわち離婚しないようにという願いがあるとするのです。

亡くなった人も玄関から出さないという、
昔はそんな風習がありました。
今では玄関から出すようにはなっていますが。

玄関から出さないというのも、
もうこの家には戻らない。
無事浄土の世界へ行ってほしい。
迷って家に戻り悪さをしない。
もう異界の人になったから。
そんな意味があったといえます。

このように後ろ向きという風習には、
たくさんの俗信、風習が報告されているようです。

昔の人は、見えないものを敏感に感じ取り、
その思いを大切にしながら家を守ってきたのです。

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