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しきたり雑考(58)

息と霊魂について

今月は「息と霊魂について」ということで考えていきます。
(『しぐさの民俗学』ミネルヴァ書房 常光徹著参考)

息と霊魂を同一にするという考え方は、
多くの人びとにみられるといいます。

ずいぶん昔からの信仰ですが、息のことわざには、
「息を引き取る」ことが死を意味したり、
「息の根を止める」が殺すという意味からも、
息と霊魂は深いつながりがあるといえます。

お墓参りに行って、
その場所でくしゃみをしてはいけないという習わしは、
くしゃみによって強く息が吐き出され、
それと一緒に自分の霊魂も抜け出てしまうという、
そんな考えを昔の人は持っていたのかもしれません。

高知県のある男の人が行う
「病人祈祷」という病魔を追い払う儀式があって、
その儀式の最後に、呪文を唱え、
病人に向けて「フー」と息を吹きかけるのだそうです。
これを「魂止め」といい、病人の身体に魂を固定させるのです。

この方法は山などで倒れたり、
ふさぎこんだりしたときにも行うようで、
ただ80才を過ぎた高齢の病人にはやってはならないといいます。
なぜならば、「魂が戻って、かえって病人が難儀する場合があるから」
というのです。

息を「フー」と吹きかける手の印は、両手を筒のようにし、
2つの小指を交互に巻き込んで、その穴から息を三回吹き込むのだそうです。
注意することは、年老いて自然に死んでいく人には使うなということです。

岡山県のある地方では、苦労性の人は、
亡くなった人が入棺する前の棺に入り、蓋(ふた)をしてもらい、
しばらく寝て、息を3回吹きかければ、死者が苦労を持っていってくれ、
あまりくよくよしなくなる。そんな習わしもあるようです。

石川県のある地方では、大正時代、風邪が流行したときに、
ある神社で白い紙を人形の形に切って、その人形に息を吹き込んで、
川に流す。そんな祈祷をしたといいます。

息を吹き込んで、悪いものを人形に移す行為であるといいます。
3月のお雛(ひな)様も、そんな意味合いがあって、
昔は川に流したのです。長野市では毎年12月10日に、
神主が作った人形で体、特に悪いところをさすって、
息を吹きかけて人形に移し、大みそかに燃やして、
病気や災いをなくす。そんなところもあるようです。

息は霊魂で、息によって霊魂の力を吹きかけ、
邪を祓う、魔除けとするのです。

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