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しきたり雑考(51)

さまざまな迷信(俗信)

今月は「さまざまな迷信(俗信)」についてお話し致します。
『なぜ夜に爪を切ってはいけないのか』角川新書 北山哲著参考

一つ目は「沢庵は二切れに切る」です。

漬物にはご飯につきものです。
信州では来客にお茶を出す時、漬物をそえてだすのが一般的です。
その時、なぜ沢庵を一切れではいけないのか、
三切れでもいけないのか、です。

一切れの場合、その言葉が「人切れ」になるようです。
日本人は言葉の力をとても重要視していて、
お節料理にも黒豆は、まめ(豆)に暮らせるようにとか、
数の子は、卵がたくさんあるので、子孫が増えるようにとかいった、
そんな言葉の使い方を尊んできました。

沢庵の三切れはどうでしょう。
これも「身切れ」に通じていって、相手を攻撃する、
そんな言葉のイメージを感じ取っていたのです。
四切れは、当然「死」を意味します。

昔、武士の時代に切腹を命じられた者の最後の食事には
漬物を三切れにして出すという、そんな風習があったようです。

次は「くしを投げると縁が切れる」です。

喧嘩をして腹いせにお皿を割ったり、
厚い電話帳を床にたたきつけたりとか、
夫婦喧嘩で石を投げつけた妻がいたということを、
どこかで聞いたこともあります。

そんな喧嘩のさなかに髪をとかす「くし」を投げると
縁が切れるというのです。この「くし」には霊力があるようで、
神前にささげる玉串(たまぐし・サカキにシデなどをつけたもの)の串(くし)と
同じ意味合いもあるようで、尊いものだから投げてはいけないようです。

古くは『古事記』に出てくるイザナキノミコトが
死んだ妻を黄泉の国に迎えに行った時に、
その妻であるイザマミノミコトが見てはいけないというのに、
死んだ妻を見たとき、その身体が腐ってウジがわいていたので、
驚いて夫はそこから逃げ出すのです。
怒りを思った妻は鬼女たちを追わせ、
その鬼女に向かって夫が「くし」を投げると、
そこからたけのこが生えてきて、逃げられたという言い伝えがあります。
「くし」を投げて、縁が切れたのです。

もうひとつ「爪や髪の毛を火にもやしてはいけない」です。

爪や髪にはその人の魂が宿ると信じられていて、
それを燃やすと自分自身を燃やしてしまうということなのです。
それで不幸になったり貧乏になったりすると信じたのです。
昔、亡き人の髪を形見とする、そんな時代劇のシーンを見たことがありますが、
それほど髪や爪には、その人自身の思いが残っていると考えられていたといえます。

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