ある本にこんなエピソードが載っていました。
無償の愛を思わせる出来事です。
無償の愛が、少し大げさであるならば、
相手のことを大切に思うとでも言ったらいいかもしれません。
在る日、お医者さんの玄関先に男の子が捨てられていました。
その医院の奥さんである光代さんは、
自分の子、真太郎と同じ年くらいのこの子を、一緒に育てることにしました。その子は辰男といいます。
辰男は少し知恵が遅れていて、小学校のときには特殊学級に通いました。
自分の子の真太郎は、聡明で、みんなから注目をあびていました。
光代さんは、それでも二人を差別することなく、どちらの子も大切に育てました。小学校3年生の運動会のときです。
かけっこがあって、真太郎は7人の集団の2番目を走っていました。カーブの所で先頭の子が倒れて真太郎は1等になりました。
先の子が倒れれば、その子を抜いて走っていくのはあたり前のことです。今度は辰男の番です。
辰男は足があまり早くはなかったのですが、
それでも珍しく2番目を走っていました。どういうことか真太郎のときと同じように、
先頭を走る子がカーブで足を滑らせ転んでしまったのです。どうしたことかそれを見た辰男は、急に立ち止まって、
倒れた子を起こして走り始めたのです。それを見ていた人の中には、
「何をやっているんだ。1位になれるのに」と叫ぶ人もいます。でも、母の光代さんはそれを見て涙があふれてたまりません。
「辰っちゃん、素晴らしい」そういって、ゴールした辰男を抱きしめました。光代さんは、倒れた子を起こし、一緒に走った辰男の行為に、
相手を思う慈しみの心を感じたのです。
知恵おくれでも、心根の優しさを思います。
人の価値は、聡明であることにこしたことはありませんが、
人を思う心を素直に現わせる在り方も、価値あるものであると感じます。
同じ競争をしていて、同じものを求めていて、
そのときに困った相手を助けられるかどうか、自らに問わなくてはならないお話です。