「情けは人のためならず」、ということわざがあります。
「人への思いやりや親切は、人を幸せにするばかりでなく、
その幸せがやがて自分にも帰ってくる」という意味です。
ある人の話を致しましょう。
明治のお医者さんで松本順という方がいました。
彼がまだ学生であったころ、
学費や生活費に困り、 金目のあるものはみな質屋さんに入れていたほどで、
それでも3度の食事は2度になり、朝から晩まで何も食べない日もあったようです。そこで質屋さんに持っていけるものはまだないかと探してみると、
古い足袋が一足あったので、天の賜り物と思い、早々、質屋さんへ持っていきました。「これでいくら借りれますか」と言うと、番頭さんに
「こちらの店では、古足袋はお預かりしていません。冗談にもほどがあります」
と言われてしまいました。彼は
「冗談で足袋を持ってきたのではありません。命がけです。
僕が死んだらどうしてくれるんですか」「それはあなたのことで、私どもには関係ないことです」
そんな会話をしているところに、店の主人が出てきて
「あなたのおっしゃることは道理です。お貸ししましょう」と言って、
わずかでしたがお金を貸してくれたのです。そのお金で松本さんは焼き芋を買って食べ、飢えをしのいだといいます。
それから20年がたちました。
松本さんはやがて早稲田に病院を設立し、
名医としてその名が広まっていきました。ある日、一人の老人が来院し、医院長の診察を願ったのです。
老人は医院長の顔をつくづく眺めて
「いや先生、いつぞやの古足袋の君ではありませんか」といいます。すると松本先生も思い出して
「これはあのときの質屋のご主人。あなたは私の命の恩人です。
あれからそのままにしてあって申し訳ありません。今度は私が恩を返す番です」
といって、一生懸命、治療をされたということです。
人にしてあげた善は、必ず巡り巡って自分の所へ帰ってくるのです。