次の話は平安時代の初期に書かれた『日本霊異記』に出てくる実際にあった出来事です。
今の香川県のある里に、裕福な家がありました。
その家の隣に貧しい爺さんと婆さんが住んでいました。
そこで裕福な家で、爺さんと婆さんの面倒を見てあげることにしたのです。その家の主人が「私たちの食べるものを毎日分けてあげよう」というので、
使用人たちもそうしたのですが、しばらくして「自分の分け前が減る」と言い出し、
食べ物を与えなくなりました。しかしその家の主婦は優しく、自分のものを分けてあげ、
爺さん、婆さんを養っていました。あるとき一人の使用人が、海で釣り人からカキを10個買ったのですが、
可哀相に思って海に逃がしてやりました。その使用人が仕事中に脚を踏みはずし死んでしまったのです。
そこで家の者たちがお祓いをしてもらうと、
「このものは七日の間、焼かないでそのままにしておきなさい」といいます。
すると七日過ぎて、生き返って、こんなことを語るのです。「お坊さんとその信者さんが10人、私を迎えにきました。
途中、黄金の宮殿が聳え立っているのを見ました。『あの宮殿は・・・』と尋ねると、
『あれはお前がいた家の主婦が生まれかわって住む家だ。
主婦は優しく慈しみ深い人だから、その功徳によって宮殿ができているのだ』
といいます。さらに進むと、一本の角を生やした鬼がでてきて、私の首を切ろうとしました。
恐ろしくて震え上がったのですが、
お坊さんとその信者さん10人が助けてくれたのです。私はその方達に『いったいあなた達は誰ですか』と聞きました。
すると『私たちはあなたが海で助けてくれたカキです』というのです」生き返った使用人は、その後思いやり深い人生を送ったといいます。
この出来事を記す最後に、「善悪の報いは必ずやってくる」と書いています。
ずいぶん昔の話ではありますが、「善い事をすれば善い報いを得られ、悪い事をすれば悪い報いを得る」という仏教の教えは、この時代も大切にされていたのです。