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みにミニ法話

(121)「情けは人のためならず」

「情けは人のためならず」、ということわざがあります。

「人への思いやりや親切は、人を幸せにするばかりでなく、
その幸せがやがて自分にも帰ってくる」という意味です。

ある人の話を致しましょう。

明治のお医者さんで松本順という方がいました。

彼がまだ学生であったころ、
学費や生活費に困り、 金目のあるものはみな質屋さんに入れていたほどで、
それでも3度の食事は2度になり、朝から晩まで何も食べない日もあったようです。

そこで質屋さんに持っていけるものはまだないかと探してみると、
古い足袋が一足あったので、天の賜り物と思い、早々、質屋さんへ持っていきました。

「これでいくら借りれますか」と言うと、番頭さんに
「こちらの店では、古足袋はお預かりしていません。冗談にもほどがあります」
と言われてしまいました。

彼は
「冗談で足袋を持ってきたのではありません。命がけです。
僕が死んだらどうしてくれるんですか」

「それはあなたのことで、私どもには関係ないことです」

そんな会話をしているところに、店の主人が出てきて
「あなたのおっしゃることは道理です。お貸ししましょう」と言って、
わずかでしたがお金を貸してくれたのです。

そのお金で松本さんは焼き芋を買って食べ、飢えをしのいだといいます。

それから20年がたちました。

松本さんはやがて早稲田に病院を設立し、
名医としてその名が広まっていきました。

ある日、一人の老人が来院し、医院長の診察を願ったのです。

老人は医院長の顔をつくづく眺めて
「いや先生、いつぞやの古足袋の君ではありませんか」といいます。

すると松本先生も思い出して
「これはあのときの質屋のご主人。あなたは私の命の恩人です。
あれからそのままにしてあって申し訳ありません。今度は私が恩を返す番です」
といって、一生懸命、治療をされたということです。

人にしてあげた善は、必ず巡り巡って自分の所へ帰ってくるのです。