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お釈迦様の生涯

釈尊の願い(79)

ベナレスのヤサ

ベナレスという町に
ヤサという青年がいた
ベナレスは商業貿易が栄え
大きな都市の一つとされていたので
裕福な商人が数多く住んでいた

ヤサは豪商の息子で
お金にまったく不自由しない
贅沢な生活を送っていた
美しい妻をめとり
誰からもうらやまれるような
幸せな生活を送っていたのだ

しかしお金に不自由しないで
贅沢に暮らせることが
幸せそのものであるかというと
必ずしもそうとはいえないものがある

お金があっても苦しみはなくならない
老いや病や死の苦しみ
あるいは愛する人との別れ
嫌な人とも会わなければならない苦しみもある
希望や心そのものはお金では買えない
お金では解決できないことは世には多々あるのだ

ヤサは日々の生活に希望を失いかけ
空虚な思いを抱かずにはいられなかった
「ああ 苦しい つらいことだ」と言いながら
一人夜半に家を出て郊外をさまよい歩いた

坐禅瞑想の疲れを癒すために
郊外で経行(きんひん)をしていた仏陀は
ヤサの言葉を聞いて
「ここには 苦しみもつらさもない さあ教えを説こう」
とヤサに語りかけた

ヤサはその言葉を聞いて驚き
「ここには 苦しみもつらいこともないのですか」とつぶやき
仏陀のもとに至り教えを聞こうと礼拝した

※経行―坐禅の疲れを癒すため、軽く歩くこと