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みにミニ法話

(137)「恩を返す誠実さ」

「誠実にまされる智慧なし」という言葉があります。

誠実に生きる事で私たちはさまざまなところでほんとうの幸せを得る事ができます。

たとえば、受けた恩を感謝していただき、
その恩を何かのかたちで返していく努力をするのも誠実な心の現れです。

そんな智慧をいつも大事にして生きていくことが必要です。

人はしていただいたときには喜びを感じますが、
しばらくするとそのありがたさが半減し、いつかは忘れてしまうものです。

あるいはしていただいたことに気がつかなかったり、
もっといけないことは、していただいて当然と思ってしまうことです。

このような自分になりやすいのだということを、よく知っていて、
そんな自分にならないように常に気をつけていることが大切です。

あたりまえではなくてありがたい事なのだと思い、それを恩返しできる、
そんな自分をつくっていく努力をする。誠実さが、そのような人をつくっていきます。

オーストラリア南東部にクトリア州というところがあります。

そこの農場主のリチャードさんが8年ほど前の9月に、
強風で折れた木の枝に当たって意識不明になったことがありました。

このとき放し飼いにしていたカンガルーが、
約300メートル離れたリチャードさんの家まで走り、
ドアを前足でノックし異常を知らせ、リチャードさんの倒れていたところまで戻り、
救助がくるまでそこで待っていたというのです。

そのノックの音で家族が気づき、
救助に向かってリチャードさんは無事救出されたといいます。

このカンガルーは10年ほど前、 車に引かれて死んだ母親の腹袋でぐったりしていたところを、このリチャードさんが助け、 野生動物局の特別許可を得て、農場で放し飼いにして育てたのです。

地元のベテラン動物保護観は

「野性だったら考えられない。
 子どもから育てられ、信頼関係が生まれていたのかもしれない」

と語ったようですが、カンガルーが子どものころ命を助けてもらって、
しかも大きくしていただいたことの恩返しのような気がして、心が温かくなりました。

それに比べ、自分を育ててくれた親の最期も看取らない子ども達がいるようですが、
このカンガルーに恥ずかしい思いがします。

恩を忘れず誠実にその恩を返していくというのは、
このカンガルーのしたことを振り返ればどんなに美しい生き方か分かります。

誠実さがそんな自分をつくるのだということを、
今一度、心に刻むことが大切に思います。