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みにミニ法話

(116)「おのれを捨てる」

二宮尊徳にこんな話があります。

尊徳の親戚に川久保民次郎という人がいて、彼の家はとても貧乏だったので、
尊徳の家でしばらくお世話になっていました。

あるとき川久保が自分の国に帰って働きたいというので、そのとき次のようなアドバイスをしたのです。

ひもじいときには、よその家にいって「どうかごはんを一杯めぐんでください。
そうすれば、庭を掃きましょう」と言ってもご飯はくれないでしょう。

空腹を我慢して、先に庭を掃けば、あるいは一杯のご飯にありつくことができるかもしれません。

これは、おのれを捨てて人にしたがう道なのです。
ものごとがすべてうまくいかなくなったときには可能な道なのです。

私も若いころにこんなことがありました。

初めて家を持ったころ、鋤(すき)が壊れてしまい、
隣の家に鋤を借りに行ったのです。

すると隣の老人が、
「今この畑を耕して菜をまこうとしているところだ。
 まき終えるまで貸すわけにはいかん」
と言うのです。

自分の家に帰ってもすることがないので、
私が「では、この畑を耕してあげましょう。」と言って、
菜までまいてあげました。
そしてその後で鋤を借りたのです。

すると老人が、
「鋤だけでなく、困った時には何でも遠慮なくいってくれ、
 きっと用立てしましょう」と言ってくれたのです。

こういうふうにすれば、何事もさしつかえないものです。

国に帰って一家を持ったなら、このことをよく覚えておきなさい。
この道理を覚えて怠らず努めれば、志の達しないものはありません。

まず、相手のことをしてあげて、見返りがなければそれはそれでよいとし、もしあればありがたく受け取る。
心のなかに欲得なく、まず先に相手の利益になることをしてあげる。

これが二宮尊徳の一つの精神であったようです。