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法話

豊かさに必要な心の持ち方 3 心の豊かさを得る方法

先月は「豊かさに必要な心の持ち方」というテーマで、
「心の豊かさ」についてお話いたしました。

心の豊かさは、物の豊かさと違い、目に見えないので、
豊かな心を判断するのは難しいことですが、
とても大切なことであるという話でした。

あたりまえの幸せ

今回は、心の豊かさを得る方法を考えてみます。

そのためには、少しずつ心のなかに、
豊かな思いをためていくことです。

目に見えるお金でも、それがすぐ大金になることはありません。
宝くじでも当たれば、大金になるかもしれませんが、
そんなことはめったにありません。

ごく普通の人は、
毎月のお給料の中から、工夫して、お金をためていきます。
心の豊かさも同じことがいえます。

心の豊かさには、宝くじのようなものはありません。
日々、少しずつでもいいので、心に豊かな思いをためていく。
これが心の豊かさを得る、確かな方法です。

この「豊かさに必要な心の持ち方」のお話をしたのは、
平成24年の2月で、東日本大震災から、約1年ほど経ってのことでした。
ですから、このお話の中には、その時のようすがよくでてきます。

次の詩も、そんなときの思いを綴ったものです。
岩手県の花巻市にお住まいの女性の方の詩で、 「たくさんの幸せ」という題です。

「たくさんの幸せ」

あの日以来
たくさんの幸せを
感じられるようになった
家族といる幸せ
電灯のある幸せ
水道から水が出る幸せ
ガソリンを満タンに
入れられる幸せ
地面が揺れない幸せ

(産経新聞 平成24年2月7日付)

この詩は、普段気づかないあたりまえことを、
とても幸せなことだと語っています。

あの大震災が襲ってきたとき、
この信州でも、ガソリンスタンドに行った時、
ガソリンを満タンにできないと言って断られました。

普段は、お金さえ出せば、ガソリンは満タンにしてもらえ、
感謝の言葉である「ありがとうございました」も言ってもらえるのに、です。

また地面が揺れない幸せも普段考えたことはありません。
そんなあたりまえのことを、私たちは幸せなことだとは、 普段思いもしません。

先月の23日に、草津の白根山が噴火し、噴石が火口から降ってきて、
そこでスキーを楽しんでいた人たちや自衛隊で冬山の訓練をしていた人たちが
被害を受けました。

さらには何の影響もないという草津温泉の宿泊者のキャンセルが相次ぎ、
のべ1万4000人に昇ったとニュースで報道していました。

山も静かにたたずんでいることが、何よりの幸せであることを、
その時思ったものです。

普段、気がつかない小さな幸せの事ごとに、感謝の思いを深くしていく。
これも豊かな心をつちかっていく方法ではないかと思います。

なりたいと思う

心の豊かさを得る方法で、小さな気づきをお話ししましたが、
基本の考え方は、「心の豊かな人になりたい」と思うことから始まります。

宮沢賢治が作った「雨ニモマケズ」という有名な詩があります。
その最後に「ソウイウモノニ ワタシハナリタイ」と結んでいます。

この詩の中に、たとえば 「西ニツカレタ母アレバ 行ッテ ソノ稲ノ束ヲ負イ」
とあります。

疲れて大変な思いをしている人があれば、
その人の苦しみを少しでも取り除いてあげたい。
そんな人になりたいというのです。

なりたいからなれるわけです。
何も思わなければ、決してそんな人になれるわけがありません。

ある新聞の「こどもの詩」に、
中学1年になる女の子の詩が掲載されていました。
次のような詩です。

「理想像」

一人で悩みを抱えこむと
不安は日に日に大きくなる
誰か一人でも正直に話せる
友達がいれば
心が軽くなる
本音を言える友達
そういう人に私はなりたい

(読売新聞 平成30年1月18日付)

この詩のコメントで、平田俊子さんは、
「『そういう友達が欲しい』という結びではないところがいいですね」
と言っています。

ほんとうに、そうだと思います。
この女の子は「そういう人に私はなりたい」と思うから、
努力しできるのだし、やがてそんな人になっていけるわけです。

心の豊かさも同じで、私は心の豊かな人になりたいと思っている人が、
心が豊かになっていける。このことをしっかり知っておくことです。

指針の言葉を持っていること

次に考えられる方法は、心を豊かにできる指針の言葉を持つことです。

毎日の生活で、仕事もあって、なんとか食べていければ、
そんな言葉などなくても、生きていくことはできます。
でも、心を豊かにしていくためには、とても必要なことだと思います。

テレビやラジオ、CMで活躍していたベッキーという名のタレントがいました。 妻を持つ男性との問題で世間を騒がせ、
今はあまりテレビでは見ることができなくなりました。

彼女がお父さんから言われた生き方があって、一つは
「一度きりの人生、自分で生き方を決めよう」
という言葉と、
「困っている人や動物がいたら、
学校や仕事に遅れてもいいから助けてあげなさい」
という言葉であったようです。

2番目の言葉は、なかなか言えるものではありません。
父親の心の広さと、慈しみを大切にする、お父さんの生き方に、
私自身も深く心を動かされた言葉でした。

こんな言葉を生き方の指針に置いておけば、
困っている人がいれば、必ず手を差し伸べることができ、
その思いと行動が、心を必ず豊かにしていくのではないかと思います。

私自身が、父からいただいた言葉は、
「人間は人間らしく らしく生きれば 何事もよし」
でした。

> 難しい宿題をいただいたのですが、
長年考えた末、分かったことを簡単に言えば、 「自分の良心に正直に生きなさい。
そうすれば必ず、何事もよい方向へ進む」
ということでした。良心を大切にするというのは、
心の豊かさを作る、大切な方法でもあると思っています。

教えを積極的に学ぶ

身近な人から指針の言葉をいただき、そう生きていくと、
やがて心の豊かさを作っていくというお話をしました。

さらに、もっと積極的に正しく生きていくための教えを学ぶことで、
心を豊かなものにしていくことができます。

たとえば、お釈迦様は、たくさんの教えを説いていますが、
その中に、天の神々の世界に赴くための徳行を4つあげています。
一つひとつ記していきます。

1、信じる心
2、恥を知ること
3、戒めを持つこと
4、財を分かち与えること

この教えは、バラバラのように見えるのですが、深くつながりあっています。

すでに天界に帰られた仏(悟りを開いた仏陀の意味)が、
今も天界でお働きになっていて、
私たちをいつも見守っていてくださると信じること。

そして残してくれた教えを信じ、学び、
その教えを行動に移していけば、必ず幸せになれること。

その教えに背いたとき、あるいは教えに沿って生きられなかったときは、
ずっと仏が天から見てくださっているから、人としての恥を知ること。
人としての恥を重ねないように、日々戒めを持って生きること。

そして、その教えの中で、最も基本的な教えは、
財を分かち与え、周りの人を幸せにしていくこと。
財がなければ、無財の施しとして、
やさしい言葉や笑顔、あるいは思いやりの心で接していくこと。

このように、この4つはつながっています。

信じる心と信じない心

お釈迦様は信じる心を、徳行の1番目に挙げています。 あるいは「信じることは最高の財である」とも言っています。
でも信じるというのは、極めて難しくなっているといえます。

昔は日照りが続いて雨が降らないと、
雨乞いの儀式をし、神様に祈りを捧げました。

この儀式はさまざまですが、世界中で行われているようで、
「雨は神からの贈り物であり、それが途絶えるのは神の罰である」
と、信じていた地域もあったようです。

今では天気予報も天気図を示し、
雨がなぜ降るのか、雪はどのように変化して、
どの地域にたくさん降るのか、そんな予想もかなり当たってきています。

そこに神様が雨を降らせたとか、信心のない民を罰するために、
神様が大風を吹かせたなどというのは信じられなくなり、
このことも、単なる迷信になってしまいました。

でも、あまりにも大雨や大雪が続くと、
どうも人の行いに間違いがあって、それを神様が気づかせるために、
こんな悪天候が続くのではないかと思う人もなかにはおられますね。

『山の怪異譚』(河出書房新社)という、
山で起こった不思議な出来事が綴られた本があります。

その中に、山の神を祭ろうとしたのですが、
仲間の一人が、その儀式に参加しないで、自分の小屋で寝ていたそうです。
すると、その者の上にのしかかる姿のない不思議な力があって、
その時、声も出ず、身体もいうことをきかず、非常に苦しい目にあったという、
そんな不思議な話が載っていました。山にも見えない何かがあるのです。

科学では説明できない不思議なことがたくさん起こる世の中ですが、
信じない心は、目に見える世界のことのみです。

信じる心は目に見える世界から、
さらに目に見えない世界にまで視野を広げることになり、
見えない世界は、見える世界の何倍もの広さがあると推定されます。

「お天道様が見ているから、悪いことはできない」
という思いは尊いし、あの世に帰って、先に逝った母に会ったとき、
この世で恥ずかしくない生き方をしたいと、自らを戒めて生きている人は、
とても優れた人のように私には思えるのです。

豊かさに必要な心の持ち方 4 心が豊かであると、どんな世界が見えるのか

心の思いによって見える世界が違う

この世界は、人がどう思っているかで、
まったく違った世界に見えることを知っているでしょうか。
同じ景色でも、見る人によってまったく違った景色に見えるのです。

あるいは、同じ人を見ていても、見る人の好きか嫌いかの思いによって、 まったく違った人に見えてしまうという現実に気がつかなくてはなりません。

今回のテーマから言えば、
心の豊かな人は、そんな世界が見えるし、
心の貧しい人には、貧しい世界が見えるのです。

たとえば、
1円を粗末にする人は、1円を使えない価値薄いものに見えるのに、 1円でも大切に思っている人は、その1円をとても価値ある物として見て、
決して粗末にはしません。

また、自分がやさしい気持ちになれば、相手のやさしさが見えます。
感謝の思いを深めれば、美しい尊い世界が見えてきます。
逆に、自分が意地悪な思いになれば、相手の嫌な所ばかりが見えるのです。

このテーマの終わりに「介護に感謝 亡き母つづる」という題で、
63才の女性の書かれた投書を載せます。

「介護に感謝 亡き母つづる」

自宅の仏壇の引き出しを整理していると、
2年前に亡くなった母が使っていたノートが出てきた。

開くと
「ここの家の人たちにもよくしてもらった。ありがとう。
きっといい思い出になると思う」
と、たどたどしい文字で書かれていた。

母はフルタイムで働く姉と暮らしていたのだが、
介護が必要となり、施設に入所するまで私の家で世話をした。

しかし、何度も何度も同じことを繰り返す母に、 私はつい言ってはいけないことを口走り、「ごめんね」と謝る日々が続いた。

母のこの文章を読み、涙で目がかすみ、そのあとは読むことはできなかった。 親の介護を経験し、私と似たような思いをした方は、多いのではないだろうか。

(読売新聞 平成23年6月21日付)

介護しているときに、母が何度も何度も同じことをいうので、
いけない言葉を言ってしまう、その心の姿と、
母の「ありがとう」と書かれたノートを見たときの、心の姿は違っています。

「ありがとう」の言葉を受け取り
涙が出るほど母を思う。その心の姿は、心の豊かさからきています。

豊かな心には、美しい世界が見えます。
そんな世界をたくさん見ることが、幸せの道を歩んでいることにもなります。
どうぞ、たくさん美しい世界を見てください。


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