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法話

愛語の花びら舞う季節 3 プラスの言葉

先月は「マイナスの言葉」についてお話を致しました。
マイナスの言葉を使うことによって、幸せになることはないということです。

相手にとって好ましい言葉

言葉には力があります。
そのためにプラスの言葉を使うことが大切です。

プラスの言葉を使っているとどうなっていくのでしょう。

まず相手に対してのプラスの言葉を挙げてみましょう。

やさしい言葉・感謝の言葉・思いやりのある言葉
積極的な言葉・相手の立場に立った言葉・祝福の言葉
穏やかな言葉・愛ある言葉・慈しみ深い言葉

これらの言葉はみな、
相手のことを考え、大切にしようとする思いから出てきた言葉です。

不思議なことで、そんな言葉を使っていると、
自分自身も幸せな思いになったり、心があたたかくなってくるものです。

お釈迦さまは口の中に斧があると言っています。

人が生まれたときには、実に口の中に斧が生じている。
ひとの悪口を語って、その斧によって、自分自身を斬(き)るのである。

(『感興のことば』中村元訳 岩波文庫)

口の中にある斧、すなわち言葉によって自分を斬りさくのです。
人に対しての悪い言葉が、自分をも斬りさいて、不幸にするのです。

逆に人を大切にする言葉は、
自分自身をも大切にしていることになるといえましょう。
あたたかな言葉を相手に語ることで、自分自身もあたたかな思いになるのです。

お釈迦さまはこう言っています。

好ましいことばのみを語れ。
そのことばは人々に歓(よろこ)び迎えられる。

つねに好ましいことばのみを語っているならば、
それによって(ひとの)悪(意)を身に受けることがない。

(『感興のことば』中村元訳 岩波文庫)

 

温かな気持ち

ここで一つの投書を挙げます。
知恵ある言葉を学んでみましょう。

ある新聞に掲載されていた
「思いやりの返事 聞いて心温かく」という題で、32才の女性の方のものです。

いつも利用している駅の近くに養護施設があるため、
知的障害のある子供と電車で一緒になることがあります。

先日、1歳の我が子を連れ、電車に乗った時のことです。
車内を行ったり来たりしながら、大きな声で歌っている、施設の子を見かけました。

3歳くらいの男の子が、
「あのお兄ちゃん、どうしてあんな大きな声をして歌っているの?」
と隣に座っている母親に尋ねている声が聞こえてきました。

一瞬、車内に何とも気まずい空気が流れました。

しかし、そのお母さんはニコニコしながら、
「そうだねえ。
今日、お兄ちゃんは学校で新しいお歌を教わってきて、
うれしくて歌っているのかなあ。
○○ちゃんも保育園で先生にお遊戯を教わった時には、
帰り道に踊ったりするでしょう?」
と答えていました。

男の子も納得したようで、にこやかにうなずいていました。

その親子の会話に、車内の雰囲気も和やかな感じになり、
そばで聞いていた私もとても温かい気持ちになりました。

私もあのお母さんのように人を傷付けることのない、
でも子供にウソにならない返事のできるような親になりたいと思いました。

(読売新聞 平成16年11月4日)

3歳の子に、知的障害の子が大きな声で歌っている理由を言っていますね。

相手の立場に立った、
お釈迦さまから言えば好ましい言葉であると思います。
知恵がないと、なかなかこのようには子供に説明できないでしょう。

このお母さんの語る言葉を聞いて、車内が和やかな感じになったと書いています。
相手を思いやる優しい言葉は、まわりの人にも、あたたかな思いを伝えていくのです。

叱りの言葉

一茶の句に、

うたた寝の叱り手のなき寒さかな

というのがあります。

うたたねをしていて、
「そんなところで寝ていると、風邪をひきますよ」
と叱ってくれる人もいない、寂しいものだ、というのです。

この場合の叱りは、相手のことを思いやって叱ってくれる言葉です。

子供のころは、まだ世間しらずで、物事の判断がよくできないので、
子供を正しい方向へと導くために叱ります。

でも、最近は子どもから、「あんな大人になりたくない」という大人も増えていて、
もっと大人がしっかりしなくてはと思う時もあります。

以前、テレホン法話のなかで、こんなお話をしたことがありました。

赤信号で待っていた親子がいて、
その親子の前を赤信号なのに平気で渡っていった大人の女性がいたそうです。

すると信号が青に変わるのを待っていた子どもがお母さんに、
「お母さん、私もいくつになったら、赤信号渡れるの」と聞いたそうです。

子どもらしい素朴な質問ですね。
この言葉を聞いて、大人はもっとしっかりしなくてはと思ったものです。

その赤信号を渡っていった大人の女性は、叱ってくれる人がいません。
自分の過ちを知ろうともしないで、人生を歩んでいってしまうわけです。

私も50才を過ぎ、また堅い職がらの仕事をしているので、
自分の言動や行動に、注意をしてくれる人もいません。

他の人のことは見えるのですが、
自分のことはなかなか気がつかないのです。

たとえば法話をしても、そのお話について、アドバイスしてくれる人はいません。
ですから、ときたま自分で自分のお話を聞いて、いけない所は正したりしています。

でも自分の話を聞くたびに、
よくこんな拙いお話を聞いてくださっているなあ、と思うばかりです。

叱られるときは、あまりいい気分ではありませんが、
相手が自分のことを本当に思ってくれて、自分がその言葉で過ちを正せるのなら、
「叱ってくれる言葉」は、やはり「プラスの言葉」の中に入れてもよいのではないかと
思われます。

自分に対してのプラスの言葉

ここで自分に対してのプラスになる言葉を挙げてみましょう。

先月、自分に対してのマイナスの言葉をあげましたが、
その反対の言葉を自らに語りかければよいわけです。

私は賢明に生きられる
私はできる人間だ
私はなくてはならない存在だ

失敗しても何度もやり直せる
それくらいのことは私にもできる

もう大丈夫
いつも幸せです
生活には絶対困らない
必ず幸せになれる

苦難は砥石(といし)
世の中は楽しいことばかり
苦労も味わいのうち

生きていることが嬉しい
何度挑戦してもくじけない
ずっと負けない

生まれてきて有り難い
生きていることは素晴らしい
みんなありがとう

誰しも辛い出来事があって、そこから逃げたいときがあります。

そんなときに、マイナスの思いであれば、もう駄目だと思ってしまいます。
ここから逃げたいし、いくら頑張っても無駄だと思ってしまいます。

そんなときに、プラスの思いになるのです。

「こんな苦労には負けない。苦労も味わいのうちじゃあないか。
せっかく人として生まれてきたんだから。あの人もこの人も、見守っていてくれる」
こう思うことが大事なのです。

いつだったかそんな逃げたい苦難に会った人を思い返して、
詩(平成16年2月)を作ったことがありました。「法愛」にも載せました。

「涙とともに」

涙とともに
パンを食べたものでなければ
人生の味は分からないと
ゲーテは言った

私は涙とともに
パンを食べたことがあるだろうか
まだまだ
人生の学びが足りない
修行が足りない

人の心を我が心とするために
さまざまな出来事から
逃げてはいけないのだ

降り積もった雪のなかから
紅梅の花が一輪
顔を出す

あなたも今
人生を生き抜く力を
学んでいるんだね

「やればなんとかなる」と自分を励まし、
仏から試練として与えられたその場を逃げてはいけないのです。

プラスの思いとプラスの言葉を使って、
なんとか苦難を乗り越えていくことが必要です。

病気に打ち勝つ言葉

病気も気の病と書きますから、気力の衰えからくる場合が多いと思います。

人間の身体では、1日に1兆個の細胞が作られていると言われています。
1兆個もあれば、そのなかに正常の細胞でない細胞もできてきます。

そんな細胞が5千から6千個くらいできるのだそうです。
それがガン細胞だそうで、免疫力のある人であると、
その細胞を免疫力で退治し、健康な身体を維持すことができるのだそうです。

それが年を取ってきて、免疫力が弱くなってきたり、
ストレスなどで免疫力が落ちてくると、ガン細胞を処理できなくなって、
ガンになると言われています。

ジョゼフ・マーフィーという人は、精神法則の権威者だそうですが、
その博士が身体にある治癒力を引きだす方法を述べています。

それは「私は、私を癒し回復させる力を持っている」という言葉を
1日3回、5分くらいの間、自分に語りかけるのだそうです。

その言葉によって無限の治癒力が自分の身体の中に湧き出てくると言っています。

このお話は平成18年にお話ししたものをまとめていますが、
当時、私は病気らしい病気はしたことがなかったのですが、
昨年少し病気をして、この言葉の力が理解できるような気もします。

プラスの言葉を何度も自分に言い聞かせると、身体にも影響を及ぼし、
健康な身体が保てるわけです。

心の思いも言葉もよい生き方

今回のお話のテーマは「愛語」ということですが、
愛語はプラスの言葉の中にあるといえます。

そんな愛語の言葉を桜の花びらのように舞わせて暮らせていけたなら、
きっとみんなが幸せに暮らせることでしょう。

最後に言葉と心の思いの注意点を述べておきましょう。
言葉と心の思いには4つのパターンがあります。

1つは、心の思いも悪く、言葉も悪い。
2つは、心の思いはよいけれど、言葉が悪い。
3つは、心の思いは悪く、言葉はよい。
4つに、心の思いも、言葉もよい。

この4つのパターンでよいのは、
もちろん4番目の心の思いも言葉もよいというものです。

1つ目は、怒りや不平の思いで悪い言葉を出してしまう場合です。
怒りの思いは、マイナスの言葉を出しやすく、
自分も相手も決して幸せになれません。

3つ目は、心ではどう思っているか分からないけれど、言葉は上手に使う場合です。
この世では相手の心が見えないので、
結構このパターンを使っている時があるかもしれません。

4つ目が1番理想的です。
この境地に達するために、1番よいプラスの言葉を常に学び、
心を穏やかにしていることです。

お釈迦さまの教えを最後のまとめと致します。

安らぎに達するために、苦しみを生滅させるために、
仏の説きたもうおだやかなことばは、実に善く説かれたことばである。

(『感興のことば』中村元訳 岩波文庫)