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法話

勝者への道 1 勝者の夢を見る

今月は「勝者への道」というテーマでお話をしてみたいと思います。

勝者とは何か

勝者とは勝つ者ですが、
会社でいえば繁栄発展していって、利益をあげている状態でしょうし、
個人のことであれば、健康であって、仕事も成功している状態であるともいえます。

何らかの目的を持っている人であれば、その目的が達成され、
新たな目的に向かって努力を積み重ねているといえます。

あるいは家庭をお持ちのかたは、
家庭がいつも平和でみんなの笑顔が絶えないといってもいいかもしれません。

そんな勝つ者として、何に気をつけ生きていったらよいのでしょう。
そんなことを少し考えてみたいと思います。

まず夢を持つ

今は夏ですが、冬のある月に、
お寺の掲示板に次のような言葉を書いたことがありました。

白雪に映える松のみどり 苦難にきらめく初心の夢

「白雪に映える松のみどり」というのは、松にとっての勝者という意味です。
松がみどりをたたえて、美しくそして気高くその姿を見せている状態です。

その勝者に至るためには、勝者としての初心の夢がありました。
美しく気高くありたいという夢です。

その夢を成し遂げていくために、
夏も冬も、ずっとみどりを失わずたたえているという地道な努力がありました。

そんな意味の掲示板の言葉です。

松というのは一年通してみどりをたたえています。
秋になると様々な木々の葉が赤や黄色に染まって、とてもきれいです。
そんな中では、誰しも松のみどりの美しさには気がつきません。

それでも松は紅葉したきれいな葉に嫉妬するわけでもなく、
たんたんとみどりの葉をたたえ努力をし続けて、
やがて冬になり、白い雪が降って、松にその雪が積もると、
その白い雪の中に青々とした松のみどりが映えて、とても美しく見えます。

それが夢を実現した松の姿です。

松がこんなふうに思っているのかもしれません。

私は、松として美しく気高くありたいという夢があります。
その夢をかなえるために、ずっとみどりをたたえていたいと思うのです。

そんな夢を抱いて、日々地道に努力をして生きてきたけれど、
冬という苦難の時がきたときに、私のこのみどりの色の素晴らしさが、
白い雪のおかげで、きらめいて見えるようになりました。

ああ、夢を持ち続けみどりをたたえていてよかった。

と。そんな意味がこの掲示板の言葉に託されています。

ここから勝者になるための第一歩は、勝者としての夢を見るということです。
そして、その夢にむかってたんたんと努力を続けていくということになります。

夢を持ち続けていけば実現していく

渡部昇一さんと言う方が、
鉄腕アトムがロボット産業の発展に寄与したという意味のことを語っています。

鉄腕アトムというのは、私がまだ小さかったころの漫画で、
アトムというロボットが活躍するのです。

それも「心やさしい科学の子」であって、
困っている人を助け、悪なるもの次々に退治していきます。

この漫画を描いた手塚治さんは、
未来の夢をアトムに託しているように思えます。

優しい心を持ったロボットですが、それは人間も同じように、
「悪を打ち砕き、やさしさを抱いて生きよ」
というメッセージとも受け止められます。

そんな夢をアトムに描いたと思われます。

漫画の中には未来のビジョンとして高層ビルが建っています。
東京に行くと現在、同じようなビルが建っていて、夢が実現していると思います。

日本人のロボットの考え方は、アトムとかドラえもんのように、
人間にやさしく友達のようなイメージがあります。

昭和54年と55年くらいに、
第2次オイルショックが来て、経済的に苦しいときがありました。

その不況にめげず、黒字に転換していったのが、
半導体とそれを使った工作機械であったと言われています。

この工作機械はいわゆるロボットですが、
日本人のロボットに対するイメージが、非常に親しみ安いものであったので、
ロボット産業として発展していったと、渡部さんは分析しています。

欧米ではロボットというのは悪いイメージがあって、
物を壊し、人間に危害を加えるものであるという見方が強く、
工作機械を作る発想がなかったと指摘しています。

現在はロボット産業もまだまだ伸びていくでしょう。

介護ロボットなど、その発展を願いますが、その発展の内に、
ロボットが「やさしい科学の子」であるという夢を忘れないでいてほしいと願います。

努力し続ける姿勢

松のみどりが一年中、そのみどりを失なわないでいるというのは、
夢に向かって努力を怠らないという意味だとお話し致しました。

ですから、勝者になるためには、
夢を抱き、その夢に向かって努力を怠らない生き方が大切になってきます。

綾小路きみまろという漫談家がおられます。

キャバレーの司会や森進一、小林幸子さんといった歌手の司会を経て漫談家になり、
今では売れっ子になりました。勝者になったわけです。

でもなかなか漫談家では食べていけず、ずいぶん苦労をしたようです。
成功するために、怠ることなく努力を続けていったといえます。

あるときステージに立って、
舞台衣装の内ポケットに録音機を入れて自分の漫談を録音したそうです。

その中から一本のテープを選び出し、
このテープをどうしたらみんなに聞いてもらえるか考えたのです。
いろいろな場所を考え出したのですが、一番よいと思った場所は観光バスでした。

そこで漫談をダビングしたカセットテープをたくさん作りました。
夜なべで奥さんと一緒に一本一本ラベルを張り、家内工業をしました。
出来上がったテープを車につぎ込んで、高速道路のサービスエリアに行きました。

トイレ休憩で駐車中の観光バスを次から次へとまわり、
「面白い漫談です。お金は要りませんから、バスの中でかけてもらえませんか」
そう言いながらテープを配ったそうです。

「何をしているんだ。変な勧誘のテープじゃあないのか」
と、サービスエリアの職員に言われたそうです。

そんなとき、
「売っているんじゃなくて、ただであげているんです」
とうまく切り抜けたといいます。

1年後タダで配ったテープが3,000本を超えるころになると、
「面白いテープだ」といって、1日で400本の注文がくるようになったといいます。

綾小路きみまろさんは、「思えば、これが原点だ」と言っています。

勝者となるために、漫談の腕を磨くばかりでなく、
自ら観光バスまで出向いて、無料でカセットテープを配る。
そんな下積みの努力が、彼にもあったのです。

ちなみに平成14年に発売された漫談CD
「爆笑スーパーライブ第1集!中高年に愛を込めて…」は、
100万枚を超える大ヒットになりました。

勝者の陰には、下積みな努力がいるのです。

私自身も夢を持ち続けるというのは大切なことだと思っています。

私が30代の頃、喫茶店でお話を聞くという運動が全国で盛んでした。
そんな運動に便乗して、私もみんなに仏教のお話を聞いていただきたいと思い、
伊那のある喫茶店の協力を得て、有志あるお坊さんと一緒に「辻説法」という会を作り、 喫茶店で講師を呼び、毎月お話をすることになりました。

その会は9年続いたのですが、
スタッフであった和尚さんたちも忙しくなり、休会となりました。

私自身は、やはり夢を捨て切れず、その1年後に同じ喫茶店の協力を得て、
「喫茶店法話の会」として再開したのです。

今度は隔月(かくげつ)ですが、今年ですでに14年目になります。
参加費が500円で、そのお金は恵まれない人たちに寄付をします。
その寄付額は今までで50万円ほどになります。

そんな活動の中で、講師でお呼びしたある和尚さんが、私に
「この活動はとても地味だけれど、よくやっている」という言葉をいただき、
続けてきてほんとうに良かったという思いが、そのとき致しました。

夢を抱き、努力し続ける中に、幸せな思いが満ちてくるのだと思います。

勝者への道 2 思いの力

思うとおりの人間になる

自分の夢を抱き努力していけば、必ずその夢はかなうというのには、
一つの法則があるのです。

それは、「人は思いどおりの人間になれる」という考え方によります。

この考え方は、現在多くの書が出ていて紹介されていますが、
これについてお釈迦様はどう説かれているのでしょう。

もうすでに2500年前になりますが、
『感興のことば』という仏典の中に、こう説かれています。

目的が達成されるまで、人は努めなくてはならぬ。
自分の立てた目的がそのとおりに実現されるのを見よ。
希望したとおりになるであろう。

「自分の立てた目的がそのとおりに実現されるのを見よ」といいます。
「そうすれば希望どおりになる」とも言っています。

自分が思っていることをしっかりイメージしていれば、
必ずイメージしたような自分になっていけるということです。

簡単にいえば、「人は自分が考えるとおりの人間になる」ということです。
そのために、目的が達成されるまで、地道に努力することであると説いています。

思うとおりの人間になるというのは、
自分の不幸を他の人の責任や環境の責任にしていれば、
そのような無責任な人間になっていくということです。

苦難を自分の問題と受け取り、自分がまず変わっていこうと思えば、
責任ある自分になっていけるということです。

どちらを選ぶかで、勝者と敗者に分かれるのです。

母と父は仲が悪かった、そのため私は不幸で結婚もできないと思えば、
そこに自分の責任はまったくありませんから、無責任な人間になっていきます。

そうでなく、父母の生き方を反面教師として受け取り、
自分の責任のもとに、自分の幸せを作りあげていこう。

そう思い生きていけば、責任ある人間になっていき、
やがて必ず、幸せを手にしていくでしょう。

自分が変わる

次の投書からも、そんなことを感じとることができます。
ずいぶん前のものですが、内容自体は古くなっていません。
57才の女性の方のものです。

苦労から逃げぬ生き方を学んだ

あるご夫婦に「仲の良い秘けつは何ですか」と尋ねたところ、
意外な奥さまの言葉が返ってきた。

人生の酸いも甘いも体験を積んだ年配の方だ。

主人が酒乱でね。地獄の毎日でしたよ。
毎日逃げ惑い、殺されそうにもなった。死ぬことばかり考えていたね。

でも、相手が悪いと責めている間って、結局自分も苦しんでいる。
私が悪かったと気づいたのよ。

私は変わろうと思った。

その日から、主人の酒が減り、やがて飲まなくなった。
優しい主人の心も見えるようになった。

苦しいことから逃げるのは楽。
でも、逃げる癖をつけると、ずっと逃げなあかん。

お金に換えられない大切なものを学んだ。

いろいろな問題を乗り越えてこそ
人への思いやりも深くなるものだと考えさせられた。

私もそんな年齢を加えていきたい。

(読売新聞 平成12年12月22日 ※太字筆者)

太字のところに、「私は変わろうと思った」と書いています。
自分の責任のもとに、生きていくという決意をしています。

すると自分の欠点や足りない所も見えて来て、
そう見えると旦那さんの良い所も見え、
互いが心を許しあえる仲に戻っていくことができたということです。

自分は自分自身の思い、考えで作っていけるのです。
ですから、夢を抱き努力していけば、必ず夢を抱いた自分になれるわけです。
勝者としての在り方でしょう。

勝者への道 3 感謝の心を忘れない

勝者となるためにもう一つ大切な考え方は、感謝の心を忘れないでいることです。

勝者となるためには、一人の力では決して成し遂げることはできません。
先の綾小路きみまろさんにしても奥さんの陰の力がありましたし、
森進一さんという厳しく接してくれた方がいて、また聞いてくださるお客さんもいて、
そんな多くの人の支えをえて、成功者となったのです。

それをいつも忘れず、「私一人の力ではない。多くの人のささえがあってこそ」と思い、
心の中で手を合わせ、多くの人を拝んでいく、そんな感謝の姿が勝者には必要です。

勝者となるためには、自分自身の自助努力はもちろん必要です。
自分が一番苦労をし、頑張ってきたのですから。

でも、人は一人では生きていられないという事実を常に胸に刻んでおくことです。

感謝は心を柔らかくし、相手の気持ちを察し、
自分の狭い世界を超えた大きな世界を見ていく力を与えてくれます。

心柔らかに、相手のほほえみを受け取りながら、
自分の夢に向かってたんたんと努力していく生き方の中に、
幸せの光が投げかけられるのです。