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法話

真なる富者とは 4 心の富

目には見えない富を求める

ここから心の富についてですが、
心にも財産があって、心の富の特徴は目には見えないということです。

ですから心の中にも大切な富があるというのを知っていないと、
それを貯蓄することもできないし、上手に使っていくこともできないわけです。

若いころは誰しも肉体が健全ですし健康なので、見える富を求めがちになりますが、
還暦を過ぎて、あの世の風の音(ね)が聞こえてくるようになってくると、
精神的なものにも価値を見出していく人が多くなっていくのは、世の常です。

「般若心経」を唱えてみたいとか、写経もいいなあとか、
法の話も聞いてみたいものだ、という思いが出てきます。

そういう思いは、心の富を見つけようとしているのだと、気がついてほしいのです。

できるならば、肉体が衰えてきたから精神的なものへの関心を、ということではなくて、
若くて身体が健全なときから、精神的な富、すなわち心の富の価値を求め、
こつこつとお金を貯金していくように、少しずつでいいから「心の貯金箱」にも貯めていくことが大事なのです。

お金を貯金するにも、日ごろ一生懸命働いて給料をもらい、
全部使ってしまいたいところを律して、貯金にまわしていきます。

家を建てるときに、どうお金を貯めたかで、一番多い回答が、
「こつこつ貯める」ですから、この貯金の仕方が王道になります。

それと同じように、心の富も少しずつでも、
若い時から心のなかに蓄(たくわ)えていくことが大事なのです。

そんな心の富を少し挙げてみます。

明るさ、やさしさ、慈しみ、美しさ、思いやり、
理解、正直、慈愛、善、親切、希望、
愛、喜び、輝き、清らかさ、
努力、勤勉、清楚、知足、満足、
穏やかさ、知恵、平和、自由、正しさ、
笑顔、感謝、積極的、前向き、光、神仏の心

これらが心の富といえるものです。

こんな心の富を得ている状態は、心が平和で、平らかで、穏やです。
明るくて積極的で、いつも感謝の思いに満ちています。

心の中に不安がなく、怒りのない、そして不平不満のない心の状態をいいます。

見えるお金という富でも、ある程度貯まっていれば、
毎日の食事代にも困らないし、病気をしてもそこから支払いができるし、
子どもがいれば教育費も心配ないとなれば、生活にも不安がなくて暮らせます。

悩みの80%は経済的なものからきているといいますから、
お金があるというのは、不安のない生活ができるということです。

そんな心の状態を、心の富を得ることでいただけるわけです。

一日何の憂いもなくて、晴れ渡った温かな日に、野原の柔らかな草の上に寝ころがり、 春のような風を感じて、空を流れる雲を見ている。

そんな心の豊かで穏やかな状態、
そんな心の状態が心の富を得ている状態と言えるかもしれません。

そのような心の平和を、心の富が作りだしてくれるわけです。

心の富を自分のものにする方法

心の富がない状態、あるいはあまり蓄えのない人の特徴の一つは、
すぐいらいらすることでしょう。

仕事でいらいらする。
お金がなくていらいらする。
時間がなくていらいらする。
人間関係でいらいらする。
家族との不和でいらいらする。

心がこんな状態であれば、心の富の蓄えはないといえます。

心がいらいらして乱れてきたら、一度そのいらいらを止める努力をしてみましょう。
努力してそのいらいらを止めて、柔らかな思いに戻った。
すると心の穏やかさを感じます。

この体験が心の富になっていきます。

お釈迦様の説かれた四苦八苦の中に、「思うようにならない苦しみ」があります。

いらいらして心が乱れる原因の一つが、
この思うようにならないところからきているわけです。

思うようにならないことはたくさんあります。

いつまでも健康ではいられない。病気にもなる。
事故にあうときもあるかもしれない。
自分ではなくても、家族の人が病気になる。死が早く来る。

お金も思うようには手に入らない。
仕事をしても、それなりの収入がない。
家を建てたいが、そんなお金もない。

妻も思うようにはならない。夫もそうだ。
子供も、お年寄りも、若い人も自分の思うようには動いてはくれない。

ぽっくり死にたいと思っていても、寝たきりになるときもある。
家族の人も介護が嫌だといっても、介護せずにはいられなくなる。

こんなときどう対処していったらよいのでしょう。

まず1番目に、
「思うようにならないのはあたりまえのことで、この世の法則でもある」と知ることです。

2番目に、
思うようにならないで心がいらいらするのは健康にも心にも良くないことだと思い、
そのいらいらを止め、心を穏やかにさせることです。

3番目に、
心が穏やかになれば、自分の心を見つめられるようになるので、
そのいらいらする原因を探して取り除いていきます。

そして4番目に、 神仏の眼から、自分の幸せを見つめられるようにしていくのです。

1番から4番まで、みな心の重要な富です。

これらを心に持って生きていると、
身近にある幸せに気づいたり、不幸を幸せに代えたり、自らの幸せを作り、
また相手の幸せを築いていくこともできるようになります。

たとえば、夫(妻)が思ようにならないので自分はいらいらしていた。
まず心を落ちつけて考えてみる。

静かに自分の思いや行動を振り返ってみると、自分のことばかり考え、
夫(妻)の立場にたって考えようとしていなかったかもしれない。

もっと、あったかな目で夫(妻)を見てみよう。
そんな反省ができるかもしれません。

一つの投書をあげてみます。
55才の看護の仕事をしている女性の方です。「夫と見た夕焼け」という題です。

「おーい、ちょっと来―い」

夫が外から私を呼んでいる。
どうせまたちょっとした用事でも頼むのだろうと思いながら、
急いでガスの火を消して外にでる。

「ほら見てみろ。きれいな夕焼けだから」

思いがけない夫の言葉だった。
言われて見上げると、夕焼けは大空いっぱい赤く染まっていて、
絵を見ているような気分になった。

夫の声かけがうれしかった。

夫は私が出かけて帰りが遅くなると不機嫌になり、
楽しかった気分を半減させてしまう。

また、いくら私にやりたいことがいっぱいあっても、平日はもちろん、
休日だって食事を作ったり家族のために主婦業をしたりしなければいけない。
クイズに応募してもらった図書券で意気込んで買ったピアノ曲もなかなか弾けない。

ふと「ああ、独身だったら自分の好きなように時間が使えるのになー」
などと思ってしまう。

でもこうして一緒に夕焼けを見ていると、
「二人もいいなあ」としみじみ思い、
私が子宮筋腫で入院した時、夫が毎日病院に寄ってくれたことを思いだす。

子供たちも独立してしまったことだし、
これからは家事を楽しんでやるよう心を切り替え、
夫と持ちつ持たれつ暮らしていこう。

今日の思いを忘れないように、
私は急いでカメラを持って来てシャッターを押した。

(朝日新聞 平成15年11月5日)

投書の初めのほうでは、いつも自分の思うようにならず、
夫のいない独身のほうがどれほどよいかと書いています。
夫にたいしての不平不満があるわけです。

でも夫が一緒に夕焼けを見ようと誘ってくれて、その美しさに心が平静に穏やかになって、 今まで見えなかった世界が見えてきました。

二人でいることの幸せ、夫が病院へいつも見舞いに来てくれたやさしさ、
家事を楽しんでやる発見、心を切り替えることのできる自分などなど、
たくさんあります。

何がそうさせたのでしょう。

夫が一緒に夕焼けを見ようというやさしさ。
それは自分のことを愛してくれているのだという発見。
それから夕焼けという自然の美しさ。
そして奥さんの心の中にある相手の気持ちを察することのできる思いなどです。

これらはみな心の富で、心の富を持つことで、
この家の環境や人は変わらないのに、幸せをそこに見つけ出し、
互いが幸せになっていけるわけです。

相手を思う気持ちは神仏の心にも通じていく、極めて尊い心の富といえましょう。

神仏の姿を見ることのできる心の富

この心の富を蓄え、その富を使いながら生きていると、
やがて神仏の姿、世界が見えてきます。

唯一の心の富というのは仏の思いや神の思いを発見したときです。
そしてさらに神仏の心を自分の心の内に発見したときです。
そんなときには、この上ない尊い幸せを感じるのです。

初めに掲げた心の富は、実は神仏の思いであり姿でもあります。
先月号で「富は神仏の現れ」というお話をしました。

財である富も神仏の現れですが、心の富も神仏の現れなのです。

ですから、この心の富をたくさん持っている人が、神仏の近くにいらっしゃる方ですし、
実際に神仏の世界を感じることのできる人でもあります。

禅的に表現すれば、自然の姿すべてが仏の声であり姿であるのです。

ですから、私は自然を見るときに、
神仏は何を知らしめようとしてこの大自然をお創りになったかのを思います。

秋の赤い葉を見た時、神仏は何を知らしめようとしているのでしょう。
そういつも、自らに問い尋ねてみます。

それを少し箇条書きにしてみます。

1、あの美しい赤い葉のように、あなたたちも美しく老いていきなさい。
2、赤い葉のように暑さや寒さという苦しみを乗り越えると、
必ず美しい生き方ができるのですよ。
3、緑から赤い葉に変わっていく。すべてはそのように移り変わっていく。
だから物事にあまりとらわれないように。
4、赤い葉が笑っている。あなたもほほえみを大事に生きていきなさいね。
5、赤い葉に染まっていくように、あなたも正しい思いに染まってください。
6、赤い葉のように、相手に幸せな気持ちを与えてください。
7、赤く染まってきれいな姿になるように、
努力を怠らなければ、必ず成功の時がくるのです。

赤い葉一つから、さまざまな教えをいただくことができます。

それを机上のものとしないで、実際に生活の中で活かしていくと、
さらに心の富が豊かになっていき、幸せを築きあげていくことができます。

見える財という富と、見えない心の富を、共に尊び、
この両者を使って、自分の幸せはもちろん、家庭や社会、
さらにはこの世を、幸せ満ちる世界に変えていきましょう。