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しきたり雑考(37)

山と田の神

今月は「山と田の神」についてお話し致します。

山に入って、登山をするとか木々を切るなど、
何か事をするときには、山の神様に祈りをささげます。
これは昔から人びとが行ってきた敬虔な信仰でした。

山の神を信じ畏れる気持ちは、今でも続いていて、
それは山の神様は、山の隅々までに、心を配り
守っていると信じているからです。

ですから、山に入るときには、その山の神様に何事もご報告し、
お許しを得るのは、山に対する人びとのしきたりといえます。

春の山開きのときによく見かけることですが、
厳かに神事を行って山開きをしています。
山の神様に礼節をとってから山に入り、
何事も起こりませんようにと、祈るわけです。

昔は、たとえばイノシシの狩猟をするとき、
山の神様にイノシシをいただくという思いで、
敬虔な祈りをして山に入ったといいます。

また、山の木を伐採するさいにも、
山の神様にお許しをいただいて山に入ることは、
大切なことかもしれません。

山菜を取るときでも、そんな神様への真摯な思いを忘れないで、
一礼してから山に入るのは礼節でしょう。

また、田の神様も人びとは信じていましたから、
今までさまざまな儀式を行ってきました。

田植えごろになると、田に山の神様を迎えます。
山の神様を迎え、田の神様になっていただき、
稲作を見守って豊作に導いてくださるように祈ります。

田の神様の名は、それぞれの地域で異なりますが、
たとえば東北地方では、農神(のうがみ)と言ったり、
中部地方では、作神(さくがみ)というらしいです。(湯川洋司説)

田植えの唄に
「天じくの、たかまが原、神あれば、神あれば、田の神様の、ててごなり」
と歌い、神様をほめたたえ、田を守る神様をお迎えする地方もあるようです。

また、唄ばかりでなく、「田植え踊り」が伝えられ、
農耕の過程や田植えのしぐさを踊りにし、豊作を願う神事も行われるところもあります。

日本人の信仰のなかに、
生活にかかわる食べ物はみな、神様から施しいただいたものと考え、
その食べ物をいただいて無事に暮らせるようにと祈る、
そんな謙虚な思いがあったといえます。

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