ホーム > 法愛 4月号 > しきたり雑考

しきたり雑考(25)

箒をまたいではいけない

今月は「箒をまたいではいけない」についてお話し致します。

私がまだ小さかったころ、
お客様が長居をしていると、母が箒を逆さに立てていたのを思い出します。

「どうして箒を立てるの」と聞くと、
「箒を立てると、お客様がすぐ帰るんだよ」と言います。
なぜだかよくわかりませんでしたが、不思議なしきたりだと思っていました。

箒には神聖な役割を果たすのものとして、二つの意味があるようです。
ひとつは汚れや悪霊を祓い清めるということと、
もう一つは福をかき集めるということです。

箒(竹ぼうきもありますが)は、昔、たいがい
神のささげた米がなる稲(いね)からできる藁(わら)で作られていました。

また『古事記』などでは、
箒が玉箒(たまぼうき)と記されていることから、
人の霊魂(タマ)と深いかかわりがあって神聖なものとして大切にされてきたのです。

ですから箒を逆さに立てるのは、
神を招く依り代(よりしろ)として、神具としての力があったのです。

箒を逆さに立てることで、神霊が降臨している祭りごとの最中で、
この祭事に無縁の人は神意によって退散させられるという考えから、
長居するお客様に早く帰ってほしいときに箒を逆さに立てたわけです。

神聖な箒ですから、箒をまたいだり足で踏みつけてはいけないのです。

この箒に宿る神様は箒神(ほうきがみ)ですが、
この神様は出産に立ち会う産神(うぶがみ)様の一つともされていました。

「箒神様が来るまで、お産は始まらない」などと言われたときもあったようです。
出産にさいしては産屋(うぶや)に箒を祀(まつ)ったり、
産婦の枕元などに箒を逆さに立て、神様を迎えて無事に出産を願ったわけです。

箒は掃きだすという働きから、子どもを早く世に出すということや、
掃きよせるという働きから、生まれてくる子に霊魂を入れて落ち着かせる
という意味もあったようです。

熊手(くまで)も箒と同じかき集めるで、
福をかき集めるという縁起物に使われていますね。

バックナンバーを読む このページの先頭へ戻る