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しきたり雑考(24)

敷居や畳の縁、枕を踏まない

今月は「敷居や畳の縁(へり)、枕を踏まない」についてお話しいたします。

小さいころから、部屋の敷居や畳の縁を踏んではいけないと言われてきました。
子どもながらにどうしてか教えてもらえず、これが礼儀だと思い、
いつも踏まないように心がけてきました。

現実的な意味は敷居や畳の縁を踏むと
すり減って痛みが早いからという理由もあります。

お寺の山門にも、敷居に似たものがあって、
そこを踏んではいけないとされています。

お寺の場合は山門の外が濁世という苦しみの多い世界を表し、
山門の中が清浄な領域で仏様の住む世界を表しています。

その山門の境を踏むことで、山門の中の清浄な世界を犯し、
神仏に対する畏(おそ)れを知らないとなり、
それなりの罰(ばち)が当たると信じたのです。

敷居や畳も、どうも同じような意味があって、
敷居を踏むことで、こちらの部屋とあちらの部屋の境界を荒らし、
不幸が起きるのではないかという禁忌(きんき)を信じたのです。
この禁忌とは、忌むべきものとして禁じるということです。

ある文献によれば、敷居は人の頭と考える地方もあるようで、
それを踏むと出世できなと考えているところもあるようです。

枕(まくら)も同じで、枕には人の魂が宿り、
それを粗末に扱(あつか)ったり足で踏むと、災いがあると信じたわけです。

もともと枕は魂が詰まった蔵のようなものとして
「魂蔵」(たまくら)から来ているようで、
それがなまって変化し「まくら」(枕)になったと言われています。

日本の漁村では、船が難破して遺体が発見できないときには、
亡き人の枕を遺体として埋葬したという話も残っています。

畳の縁もこちらとあちらの境界を表していて、
そこを踏むと、相手の領地を汚し、
それが原因でよくないことが起きるのではないかと信じたわけです。
土地の境界も似たところがありますね。

これらがやがて日本の礼節として残ってきて、
今でも敷居を踏まない、畳の縁を踏まないという
礼としての作法が受け継がれているといえます。

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