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お釈迦様の生涯

釈尊の願い(125)

イラスト・山中一正

悲泣の涙 大海のごとし―ひきゅうのなみだ たいかいのごとし―

もう一人の比丘尼(女性の出家者)の話がある
大震災ですべてを失ったのに似ている
その名はバターチャーラーといった

彼女は一富豪の娘であったが
下僕を愛していた彼女に結婚の話が持ち上がると
二人で駆け落ちして遠くの村で過ごし
不本意ながら貧しい生活を強いられていた

ある時暴風雨があって 夫は雨が漏らないようにと
ジャングルに入って材木を集めていると
アリ塚の所で毒ヘビにかまれて死んでしまった
暴風雨のために二人の子が泣くので
彼女は明け方に夫を探しにいった
しかし夫の死を知り悲しみに泣いた

雨は降りやまずさらに風も強くなり
家の中に雨水が入り込み膝まで水が達した
そこで彼女はそこから高い丘に避難しようと
二人の子を抱いて家を出た

まず兄をおいて小さな弟を抱いて川を渡り
木の枝にその子を置いて
兄を迎えに行こうと引き返した
するとどこから鷹が飛んできて弟をつかみ逃げ去った
彼女は大きな声で鷹を追いやろうと叫んだが空しく
その声を聞いた兄の方が自分を呼んでいると思い
動き出して川に落ち流されしまった

一時に夫と二人の子供を失ったバターチャーラーは
悲嘆にくれ自分の家に帰ろうとした
途中で一人の男に合い
昨夜の暴風雨で彼女の父母も兄弟も
死んでしまったことを知った
彼女は悲しさで気が狂い
着物が身体から落ちたのも知らなかった

祇園精舎にやってきた彼女に
ブッダは正気に戻れと一喝した
正気に戻った彼女に衣を与え
悲しみの事情を聞かれて世の無常を説き
そして輪廻の間には 悲泣の涙は
大海の水にも匹敵するようなこともあると諭した

教えを聞くうちに悲しみが薄らいでいった彼女は出家をし
心の平安を取り戻し 修行に励み悟りを開いた
やがて多くの弟子を教導するまでになったという